とっておきの熊野 熊野古道エコツーリズムその二 記録
『熊野川ー三反帆の川舟に乗る〜熊野古道川丈街道と川舟の旅〜』
実施日:平成17年7月16日(土)
場所: 三重県南牟婁郡紀宝町内、熊野川
参加者: 6名
かつて熊野川は人々の往来を始め、木材や物資の運搬のための船でにぎわい、昭和30年代くらいまでは、三反帆の川舟が往き来する様子がいつでも見られました。『熊野川――三反歩の川舟に乗る』はこの三反帆の川舟に乗るエコツアーです。往時の繁栄を偲ぶとともに、帆掛け舟ならではの快適さと、熊野川の豊かな自然を改めて見直す機会とすることを目的にして実施されました。
当日は夏の日差しが強く、紀宝町浅里の里から舟に乗る上流部の小鹿までの熊野古道川丈(川端)街道は、汗を拭いながらの歩行となりました。「宣旨帰り」と呼ばれる区間には岸壁沿いに古い道筋が残されており、この熊野川に沿った陸路の険しさを実感させられました。約1時間30分で小鹿に到着し、川舟に乗船しました。
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川丈(川端)街道の宣旨帰り付近を歩く
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いよいよ三反帆の川舟に乗船する
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荘司準治さん、荘司健さん親子の船頭さんが二艘の舟を用意してくださいました。準治さんの舟にはお客様が乗船し、健さんの舟にはスタッフや関係者が乗り込みました。帆をはらず、帆柱だけが立っている状態で少し下流部まで下り、それから帆柱に三反帆が揚げられました。
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三反帆を揚げる
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南風(まぜ)を待つ
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この日はゆるやかな南風が吹いていましたが帆は風をうけると前方にふくらみ、舟は静かに上流に向って動き始めました。船外機のついた舟に乗りなれていると、エンジン音のない舟は止まっているかのように錯覚します。しかし、周囲の風景を見ていると、微風にもかかわらず確実に川を遡っています。
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帆がふくらみ、川舟は川上に向って走り始めた
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船頭の荘司準治さんは、櫂で舟を操る
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川底をたたく波の音がします。きれいで心地よい音です。川沿いの林からは鳥の声が聞こえてきます。この日は普段よりも水が透明で、川底の石がよく見えます。水、風、静寂・・・これらの熊野川の自然の中に、すっぽりと入り込んだという感慨を覚えます。
荘司さん親子から、こんな話を聞きました。
「以前の熊野川の水は今よりはるかにきれいだった。漁師たちは鮎、ハゼ、エビ、ウナギ、スズキなど、舟に足場がなくなるほどの魚を獲ることができた。しかし、最近は川の水が濁り、日光が充分に川底にまで届かなくなり、鮎の餌となるコケが生えなくなった。」
「上流部の川舟は朝早く川下に下りてきて、午前10時頃から吹き始める南風(まぜ)を三反帆で受けて、上流へ帰って行った。風が吹かないときには、舟は岸からロープで引っ張って瀬を上った。舟に乗ったまま一人で、ロープで瀬を上る方法もあった。」
「南風が吹いていても、蛇行する熊野川では風向きが逆になる箇所がある。また、上の方では岸壁が両側にせまり、風が強く吹いた」
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昼島の上で昼食をとる
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昼島のから見る熊野川は、絶景
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昼島に上陸して、昼食を取りました。ここは柱状節理の岩の上部が碁盤の目のようになっており、天照大神と熊野権現が碁を遊んだとも言われており、島の上からは山の間を蛇行する熊野川の絶景を楽しむことができました。昼食後、もう一度三反帆を揚げて、風の力で遡行しましたが、ゆっくりとしたスピードで音もなく川を走る帆掛け舟は、熊野川の環境にもっともやさしく、熊野川の自然をじっくりと観察できるものであると感じました。
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三反帆を揚げる荘司準治さん
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竿で舟を動かす荘司健さん
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また、人や物資の運搬に川舟が大きな役割を果たしてきた歴史、熊野川の豊かな川の幸がはぐくんだ独自の食文化や川舟操作の技術を、次の世代にまで引き継いでいくことの大切さを感じた旅となりました。
(橋川記)
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