とっておきの熊野 山村の暮らし体験講座その九 ツアー記録

『モミ、ツガ、トガサワラの森を歩く』
〜 深山の巨木と集落跡が語るもの 〜

実施日:平成17年10月1日(土) 

場所: 三重県熊野市大又、大又国有林

参加者: 7名

熊野の山の本来の姿は、どのようなものだったのでしょうか?この視点は、熊野の自然と文化を知る上で、大切なものです。なぜならば、熊野の山と熊野信仰は深い係わりがありましたし、熊野に住む人々の暮らしもまた、山とともにあったからです。
熊野の山では江戸時代以前から木が伐り出されたり、植林が行われたりした記録があるようです。時代が下るにしたがって、伐採と植林が活発に行われ、熊野の山の天然林は減少していきました。熊野市の北部にある面積約2,200haの大又国有林では、本格的な天然林の伐採が大正末期に始まりました。現在ではそのほぼ全域がスギ、ヒノキの植林地となっています。
大又国有林の中に「モミ・ツガ植物群落保護林」、「トガサワラ植物群落保護林」があり、ここには熊野の山の本来の姿を残す天然林があります。また「文政スギ植物群落保護林」は江戸時代の文政年間に植林された杉の大木が林立する林で、学術上貴重なものとなっています。
今回のツアーは大又国有林に残されたこの三つの保護林を歩いて、熊野の本来の森の姿を確認することと、伐採が行われていた時代の人の営みを語る遺物を見学することが目的です。そのことによって、数百年を単位とする木の一生や森の変遷を感じるとともに、これからの時代、人は森とどのような関わりをもっていくべきかに思いをめぐらす機会としたいと考えました。
このツアーのガイドは元営林署農林水産事務官の竹平巨嗣さんにお願いしました。大又国有林の隅々まで知り尽くしておられる方です。竹平さんの説明を聞きながら、7名の参加者の方々と森を歩きました。

ガイドの竹平巨嗣さん

「文政スギ植物群落保護林」には、文政年間に植林された樹齢約180年のスギの大木が500本以上あります。竹平さんによると、まだ植林が普及していなかったその時代、苗木は天然のスギから実生で現地で育てたものと推測されますが、熊や狼がいた険しい奥山で、昭和30年ころに伐採されるまでは今の倍近くあった面積を、搬出の当てもないところで開拓したというのですから、不思議に思うと同時に当時の苦労が偲ばれます。

文政スギ植物群落保護林

「モミ・ツガ植物群落保護林」は文政スギに隣接してあります。ここには樹齢200年を越えると想定されるモミの大木のほか、ツガ、ブナ、スギ、ヒノキ、サクラ、ミズメ、ヒメシャラ、ヒバなど多数の樹木が観察できます。この姿が大又の森の本来の姿で、天然林の中は人工林にはない豊かさが感じられ、すがすがしい気分になります。ツガは建築の柱材として、モミは天井板や棺に使われることが多かったのですが、近年では素麺の木箱としても利用されていました。それぞれの木には性質に適した利用の方途があったそうです。

モミ・ツガ植物群落保護林

さらに奥にある池ノ宿には、かつて木地師が住んでいて、その住居跡が残っています。また山中には墓もあるそうです。昭和28年に営林署の大又製品事業所がこの場所に移転され、その跡地や住居跡がスギ林の中に残っています。これらは大正末期から昭和30年代にかけて、天然林の伐採と植林が最も盛んに行われていたことを物語っています。

昭和30年ころの池ノ宿

池ノ宿から約1時間山を登ると、「トガサワラ植物群保護林」に到着します。ここにはモミ、ツガに加えて、紀伊半島南部と四国の一部にわずか1,000本程度しか残っていないと言われるトガサワラが生育しています。中でも胸高幹周囲が605cmあった東洋一と言われるトガサワラの大木がありました。残念なことに、平成10年10月の7号台風で倒れ、現在も森の中に横たわっています。

トガサワラ植物群落保護林

正確な樹齢は不明ですが、300年から400年の時間を要してこれだけの大木になったと推定されています。7年前に倒れた木であるというのに、このトガサワラの大木は人を圧倒するような迫力があります。近辺には稚樹が確実に育ち、更新が始まっていることは間違いありません。少しほっとした気持ちになりました。

東洋一のトガサワラ大木

大又林道に戻りさらに北上すると、素堀のトンネルがあります。昭和13年に開通した長さ285mの池ノ宿洞門です。このトンネルは森林軌道(トロッコ)用に作られたものです。林道のこのあたりは森林軌道だったところですから、勾配がゆるやかで、林道としては車でも楽に走行できます。

池ノ宿洞門

池原方面へ通じる備後川林道と分かれて、佐渡林道に入ると、五郷小学校分教場跡に到着します。昭和24年ころ分教場の生徒数は15名、先生は3名だったそうです。周辺には森林修練道場、診療所などもありました。現在はすべてそれらの石垣に囲まれた跡地だけが残されており、時代の移り変わりを強く感ぜずにおれませんでした。

五郷小学校分教場跡の周辺

ツアーを終えて、参加者の方々からはトガサワラの大木の迫力、天然の森を歩くことの楽しさなどを感じることができたという感想を聞かせていただきました。天然林と植林地はまったく異なる森であることや、今は誰一人住むことのない山の中に集落を形成するほどに人の営みがあったことに驚きました。森の経済的価値が追求されていた時代から、森が持つ環境保全上の価値が問われ始めている時代に移り、人と森の関係について改めてじっくりと考えることができたのではないかと思います。

(記録:橋川)

以上


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